たった今、空を見上げたら雲の間から満月が見えた。

古典を教えていたからというわけではないのだが、僕は月が好きだ。以前、能登の志雄町に夜桜を見に行ったことがある。満開の桜ごしに見る月は恐ろしいほど美しく、まるで魂が体から抜け出るように感じた。月光のほの白い青と、桜の淡いピンクが何とも言えず艶めかしく、色の着いた空気にからめとられそうになる。いにしえの人もこれを見たのか。そう思った刹那、西行や定家らの歌詠みと何かつながった気がして勝手にうれしくなった。

などと考えをめぐらすうちに、いつのまにか月は雲に隠れてしまっていた。あの時、一緒に月を見た人と今はいっしょに住んでいる。