19日の朝に、かなざわ演劇人協会会長の有側末広氏が亡くなった。
本当に長年、地元の演劇のためにご尽力されてきた方なので、おそらくたくさんの関係者の方々がたくさんの思い出をお持ちだろうから、僕が何かを語るのも非常におこがましいと思いつつ、お通夜の席でお経を聞きながらつれづれと思い巡ったことを書き連ねてみる。

僕が高校時代に演劇部の大会に出ていた頃、有側氏は審査員をされていた。高校生が創った今思えばとても未熟な笑いを「こんなものは芝居ではない」とでもいわんばかりにバッサリと厳しく批評していて、僕らナマイキな高校生たちはひそかに「有側ジイ」なんて呼んでいた。

それから10年以上経って僕も少しは大人になった。有側さんとも何度か話をする機会があったりして、いつか一緒に芝居がしてみたいなと思うようになったのだが、4年ほど前に『春のうららの隅田川』(別役実氏作・中條薫氏演出)という作品で共演させていただいた。その時の有側さんは台本の自分のセリフの所に長い付箋を張り、それをちらりちらりとめくりながらセリフを覚えていた。そんな几帳面な姿とはうらはらに、本番ではひょうひょうとした自由な演技が印象に残っている。二人ともホームレスの役だったのだが、楽日なんかはほんのりお酒のにおいを漂わせ、「うわ、マジかよ。ほんまもんじゃないですか」なんて思ったものだ。

そんな人が、もういない。
なんだか信じられないような気もするのだけれど、「有側ジイ」はもういないのだ。

お通夜の会場は人があふれていて、若い人から年輩の方までたくさんの人が悲しみに沈んでいた。涙をこらえきれない様子の人も何人もいた。この人たちはそれぞれ故人との間にどんな思い出を持っているのだろう。


有側先生、長い間おつかれさまでした。心よりご冥福をお祈り申し上げます。


追記(ご遺族、関係者の方々へ):僕なりに精一杯心を込めて文章を書いたつもりですが、万が一失礼な点などございましたら、ぜひお知らせください。心よりお詫び申し上げるとともに、訂正あるいは削除させていただきます。